〈家庭内での差別として〉
以前、金城学院大学文学部のチャプレンをしておられ、アメリカのマイノリティーを専門とする藤井創先生は、1999年に出された著書「世紀末のアメリカとキリスト教」(新教出版)の中でこう記しています。
「キング牧師は、少年の時、親しかった白人の友人の親から『もう今日からうちの子どもと遊んではならない』と追い返された。しかし、どんなに差別をされても、家に帰れば彼を迎え、抱きしめくれる家族が彼を励ました。だが、ゲイはそうではない。自分を産み、育んでくれた家族からさえもーしかも、そのキリスト教信仰のゆえにー呪われ、見捨てられるのだ。アメリカ社会の中で最も激しく差別され、最もはなはだしく傷ついているのはゲイなのである。」(同著55ぺージ)
アメリカの保守的なクリスチャンホームで育った同性愛者の方が、親からの「生まれてこなければよかった」と受け止められるメッセージに、自らのいのちを断つ事例は、時々、日本にも伝えられてきました。
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〈日本の教会でも〉
性的マイノリティーが他の差別と大きく異なる点の一つは、家族内で差別を受ける可能性があることです。特に親からの拒絶的態度は、いよいよ孤立を深め、耐えがたい苦しみへと当人を追い込みます。日本でも、親からの強い拒絶や存在否定、人格否定をされた場合は、本気で自死を考えます。
私が約20年間、相談を受けてきた事例のほとんどは、クリスチャンホームに育ち、洗礼を受けている方々のものでした。ご信頼をいただき、相談が進む中、牧師など指導者へのカミングアウトを勧めると、ほとんどの方は実行されます。牧師から、受け入れられ、一定の安心を得てくださったようです。多くの牧師方がカミングアウトに適切に対応されたのには、感心しています。(一般的には、そうではない事例が少なくないことも、見聞きしています)
逆にほとんどの方は、親にカミングアウトをされませんでした。親に告知している方々は、親への告知後に私に相談をしていたケースばかりです。そもそも一般的にも性的なことを子どもは、親には告げません。また、親を悲しませたくないのかもしれません。親が自分の育て方が悪かったと自らを責めることが予想できるからです。しかし、一番の理由は、親からの拒絶や否定的な言葉を受け場合、自らの存在が否定され、さらなる孤独と苦悩に陥ることが予想されるからでしょう。
〈親の側の葛藤や困惑〉
親子関係は、人間にとって根源的なもので、アイデンティティーや自己存在価値に支配的影響を及ぼします。関係が近いだけに子どもは拒絶を恐れますし、親の方も、冷静に受け止め、最善を考えることが、困難となります。
原因不明で教会を離れた息子がゲイコミュニティーに加わっていると、知った母親からの相談をいつくか受けてきました。クリスチャンである子どもから、突然、性適合手術を受けて新しい性で生きたいと告げられ苦悩するクリスチャンの親たちの声も聞かせていただいてきました。そこで、次回は、親や家族の側に私なりに願うことを記して、最終回とします。